サーマルペーストの熱伝導率と電子機器の熱設計および放熱性能を左右する材料選定 高性能電子機器の冷却技術を解説
サーマルペーストの選定で重要となる熱伝導率と熱設計の考え方
はじめに
電子機器の小型化・高性能化・高密度実装が進む中、発熱部品から発生する熱を効率的に放散するための熱設計は、製品の信頼性を左右する重要な設計要素となっています。CPU、GPU、パワー半導体、LED、車載電子機器、通信機器、産業用制御機器などでは、動作時に発生する熱を適切に処理できなければ、部品温度の上昇、性能低下、材料劣化、さらには製品寿命の低下につながる可能性があります。
このような熱対策に使用される代表的な熱伝導材料の一つがサーマルペーストです。発熱部品とヒートシンクなどの放熱部材との間に存在する微細な隙間を埋め、界面における熱抵抗を低減することで、熱をより効率的に放熱側へ伝える役割を果たします。
ただし、エンジニアの視点から見ると、サーマルペーストを選定する際に、単純に「熱伝導率が高い製品」を選べばよいわけではありません。熱伝導率だけでなく、塗布厚み、濡れ性、粘度、塗布・ディスペンス性、使用温度範囲、電気特性、熱サイクルへの耐性、長期信頼性などを総合的に評価する必要があります。
本記事では、熱マネジメントにおける熱伝導率の重要性を整理するとともに、サーマルペースト、放熱グリース、熱伝導ゲルをどのような観点から選定すべきかについて、エンジニアリングの視点から解説します。
サーマルペーストとは何か
半導体パッケージや電子部品とヒートシンクの接触面は、一見すると平滑に見えます。しかし、実際には表面に微細な凹凸が存在しており、2つの部材を直接接触させると、接触面に微小な空気層が残る場合があります。
空気は一般的な熱伝導材料と比較して熱伝導率が非常に低いため、界面に空気が残ると熱抵抗が増加します。その結果、発熱部品からヒートシンクへの熱移動が妨げられる可能性があります。
サーマルペーストは、このような微細な隙間を充填し、発熱部品と放熱部材との実効的な熱接触を改善するために使用されます。
日本の電子機器業界では「放熱グリース」「熱伝導グリース」「熱伝導ペースト」などの名称も使用されます。英語圏でいうthermal greaseと、一般的なサーマルペーストは用途や製品設計によって名称が異なるものの、発熱部品と放熱部材の界面における熱抵抗を低減するという基本的な役割は共通しています。
一方、熱伝導ゲルは、比較的柔軟で追従性の高い材料として設計されることが多く、部品高さのばらつきや比較的大きな隙間、複雑な形状の界面などに適しています。
なぜ熱伝導率が重要なのか
熱伝導率は、材料が熱をどれだけ伝えやすいかを示す代表的な物性値であり、一般的にW/m・Kで表されます。
熱伝導率が高い材料ほど、同じ条件下では熱を効率的に移動させる能力が高いと考えられます。そのため、サーマルペーストの性能を評価する際、熱伝導率は重要な基本指標の一つとなります。
しかし、実際の熱設計では、熱伝導率だけを見て判断することは適切ではありません。熱伝導材料の熱抵抗は、概念的には次のような関係で表すことができます。
R = L /(k × A)
- R:熱抵抗
- L:熱伝導材料の厚み
- k:熱伝導率
- A:有効熱伝導面積
この関係からも分かるように、熱抵抗を低減するには材料の熱伝導率だけでなく、実際に形成される材料層の厚みや有効接触面積も重要です。
例えば、非常に高い熱伝導率を持つサーマルペーストであっても、必要以上に厚く塗布されれば、材料層そのものの熱抵抗が増加する可能性があります。
そのため、実際の製品設計では「熱伝導率の数値が高いか」だけではなく、「所定の厚みで安定して使用できるか」「実装工程で均一な界面を形成できるか」という視点が重要になります。
熱伝導率と実際の放熱性能は同じではない
熱対策材料を選定する際に、カタログ上の熱伝導率だけを比較するケースがあります。しかし、実際の電子機器では、複数の要因が最終的な放熱性能に影響します。
1. 界面層の厚み
サーマルペーストの塗布厚みは熱抵抗に直接関係します。一般的には、同一材料であれば界面層が厚くなるほど材料層による熱抵抗は増加します。
したがって、重要なのは単純に材料を多く塗布することではなく、設計上適切な厚みを確保し、接触面全体に均一な熱伝導層を形成することです。
2. 濡れ性と界面充填性
サーマルインターフェース材料には、部品表面の微細な凹凸を適切に充填し、界面に残る空気をできるだけ低減する性能が求められます。
特にアルミニウム、銅、ニッケルめっき面、セラミックス基板、半導体パッケージなど、異なる表面状態を持つ材料を接合する場合には、材料の濡れ性や界面形成性を確認することが重要です。
3. 粘度と塗布性
サーマルペーストの粘度は、実際の製造工程にも大きく関係します。
自動ディスペンス、スクリーン印刷、ステンシル塗布などの量産工程では、材料が設備に適合し、安定した吐出量と塗布厚みを維持できることが重要です。
熱性能が優れている材料であっても、量産工程で塗布量に大きなばらつきが発生すれば、製品ごとの熱抵抗にもばらつきが生じる可能性があります。
4. 温度安定性
電子機器では、起動・停止や負荷変動に伴って温度変化が繰り返されます。このような熱サイクル環境では、サーマルインターフェース材料の長期安定性も重要です。
材料を選定する際には、使用温度範囲だけでなく、揮発性、分離、ポンプアウト、熱サイクル後の状態変化などについても確認する必要があります。
5. 電気絶縁性
パワーエレクトロニクス、高電圧機器、車載電子機器などでは、熱伝導性能だけでなく電気的特性も重要な選定条件となります。
回路構成によっては、電気絶縁性を備えた熱伝導材料が必要となる場合があります。そのため、最終製品の電気設計と材料特性を合わせて評価することが重要です。
サーマルペースト・放熱グリース・熱伝導ゲルの違い
サーマルインターフェース材料には複数の種類があり、それぞれ異なる設計上のメリットがあります。
サーマルペーストは、発熱部品とヒートシンクなどの界面に存在する微細な隙間を充填し、低い界面熱抵抗を実現する用途に広く使用されています。
放熱グリースも同様に、半導体部品と放熱部材の間に使用される代表的な熱伝導材料です。特に、薄い界面層を形成する必要がある用途で検討されます。
熱伝導ゲルは、一般的なペーストやグリースよりも柔軟性・追従性を重視した設計が可能です。部品高さのばらつきや比較的大きな隙間がある場合、接触状態を安定させるための選択肢となります。
例えば、CPUやGPUとヒートシンクの接触面ではサーマルペーストや放熱グリースが適している場合があります。一方、部品間のクリアランスが大きい場合や、寸法公差への追従性が必要な構造では、熱伝導ゲルなどのギャップフィラー系材料が適する場合があります。
したがって、「最も熱伝導率が高い材料」を選ぶのではなく、熱源、放熱構造、界面形状、製造工程、信頼性要求を総合的に評価することが重要です。
実際の熱設計に対応するTOUSEN TSAS50
ペーストタイプの熱伝導材料を必要とする用途に対して、TOUSENではTSAS50 Thermal Pasteを熱マネジメントソリューションの一つとして提供しています。
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TSAS50は、発熱部品からヒートシンクなどの放熱構造へ効率的に熱を移動させる必要がある用途において、設計条件に応じて評価できる熱伝導材料です。
実際の採用検討では、材料単体のスペックだけでなく、以下の項目を含めて総合的に評価することが推奨されます。
- 発熱部品の消費電力および発熱量
- 必要な熱抵抗
- 有効接触面積
- 目標とする界面層厚み
- 接触面の状態および表面粗さ
- ディスペンス・塗布方法
- 実際の使用温度
- 温度サイクル条件
- 長期信頼性要求
特に量産用途では、材料の熱性能だけでなく、ディスペンス安定性や塗布工程との適合性を事前に確認することが重要です。
材料の塗布量と界面厚みを安定して管理できれば、製品間の熱抵抗ばらつきを抑え、量産時の熱性能をより安定させることにつながります。
サーマルペーストを選定する際の5つのポイント
1. 発熱量を確認する
まず、対象部品の発熱量と最大許容温度を把握します。CPU、GPU、パワー半導体などでは、負荷条件によって発熱量が大きく変化するため、実際の使用条件を想定した熱設計が必要です。
2. 熱の流れを確認する
発熱源からヒートシンク、筐体、冷却プレートなどの最終的な放熱先まで、熱がどのように移動するのかを確認します。
3. 界面層の厚みを管理する
サーマルペーストの性能を十分に引き出すためには、適切な塗布量と界面厚みを維持することが重要です。
4. 製造工程との適合性を確認する
自動ディスペンス、印刷、手塗りなど、実際に使用する工程に対して材料が適合するかを確認します。
5. 長期信頼性を評価する
温度サイクル、振動、湿度、経時変化、機械的ストレスなど、最終製品が実際に受ける環境条件を考慮して材料を評価する必要があります。
このような評価方法を採用することで、単純に熱伝導率の数値だけを比較するよりも、実際の製品に適したサーマルペーストを選定しやすくなります。
熱伝導率だけでは決まらないサーマルインターフェース性能
エンジニアリングの観点から最も重要なのは、熱伝導率は非常に重要な指標ではあるものの、それだけでサーマルインターフェース材料の性能を判断できないという点です。
高い熱伝導率を持つ材料は、同じ条件下では熱を伝える能力に優れています。しかし、実際の製品では、材料の厚み、接触状態、濡れ性、塗布方法、熱源と放熱部材の構造などが複合的に影響します。
適切なサーマルペーストは、単体で高い熱伝導性能を持つだけでなく、対象部品、ヒートシンク、製造工程、使用環境と組み合わせた状態で安定した性能を発揮する必要があります。
同様に、放熱グリースや熱伝導ゲルについても、熱伝導率だけで優劣を判断するのではなく、それぞれの材料が持つ粘弾性、追従性、塗布性、耐久性などを含めて評価することが重要です。
特に高発熱密度の電子機器では、界面熱抵抗を適切に低減することで、部品温度の上昇を抑制できる可能性があります。これはシステムの安定動作や熱ストレスの低減、長期信頼性の向上を検討するうえでも重要な要素となります。
まとめ
電子機器の高性能化・小型化が進むにつれて、熱設計と放熱対策の重要性はますます高まっています。サーマルペースト、放熱グリース、熱伝導ゲルはいずれも電子機器の熱マネジメントに利用されますが、それぞれ適した用途や特性が異なります。
熱伝導率は、熱伝導材料を評価するうえで重要な基本指標です。しかし、実際の熱性能を判断するには、界面層厚み、濡れ性、粘度、塗布性、使用温度、電気特性、熱サイクル特性、長期信頼性などを総合的に評価する必要があります。
ペーストタイプの熱伝導材料を必要とする用途では、TOUSENのTSAS50 Thermal Pasteも選択肢の一つとして検討できます。
最も熱伝導率が高い材料が、必ずしも最適な熱対策材料とは限りません。重要なのは、実際の発熱条件、放熱構造、製造工程、使用環境に適合し、必要な熱性能を安定して実現できる材料を選定することです。
TOUSENでは、サーマルペーストをはじめ、各種熱伝導材料・熱マネジメント材料について、用途や設計条件に応じたソリューションを提供しています。
熱伝導グリースとサーマルペーストの熱抵抗を理解する電子機器の熱設計と放熱性能を徹底解説
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