AIサーバーの放熱設計に適したサーマルペーストの選び方
AI時代におけるサーマルペーストの選定方法 技術者が重視すべき熱設計のポイント
生成AI、大規模言語モデル、高性能コンピューティング(HPC)、データセンターの普及に伴い、半導体デバイスに求められる放熱性能は年々高まっています。AIサーバーやGPU、CPU、AIアクセラレーターでは、高負荷状態が長時間継続するため、従来の空冷方式やヒートシンクだけでは十分な熱対策が難しいケースも増えています。
こうした背景から、サーマルペースト(thermal paste)、熱伝導グリース(thermal grease)、熱伝導ゲル(thermal gels)などの熱伝導材料、いわゆるTIM(Thermal Interface Material)の重要性がさらに高まっています。
特にサーマルペーストは、発熱部品とヒートシンクの間に存在する微細な凹凸や空気層を埋め、熱の伝達経路を改善する材料として、CPU、GPU、AIサーバー、パワーエレクトロニクスなど幅広い分野で使用されています。
ただし、AI向けの熱設計において、単純に「熱伝導率が高い材料」を選べばよいわけではありません。技術者の視点では、熱伝導率だけでなく、界面熱抵抗、塗布厚、粘度、レオロジー特性、濡れ性、ポンプアウト耐性、長期信頼性、実装工程との適合性などを総合的に評価する必要があります。
AI機器で高性能なサーマルペーストが重要になる理由
AI向けコンピューティングシステムでは、GPUやAIアクセラレーターが長時間にわたって高い演算負荷で動作することがあります。その結果、チップから発生する熱量だけでなく、単位面積あたりの熱流束も大きくなります。
一方、半導体パッケージやヒートシンクの表面は、精密加工されていても完全な平面ではありません。ミクロレベルでは表面に凹凸が存在し、2つの固体表面を接触させても微小な空隙が残ります。
この空隙に存在する空気は、一般的な熱伝導材料と比較して熱伝導性が低いため、熱抵抗を増加させる要因になります。
サーマルペーストの基本的な役割は、こうした微細な空隙を充填し、発熱体とヒートシンクの間により連続的な熱伝導経路を形成することです。
したがって、サーマルペーストを評価する際には、カタログ上の熱伝導率だけを見るのではなく、実際の実装状態における界面熱抵抗や塗布後の安定性まで考慮することが重要です。
サーマルペーストと熱伝導グリースの違い
電子機器の熱設計分野では、サーマルペーストと熱伝導グリースという名称が類似した意味で使用される場合があります。実際の材料選定では、名称そのものよりも、製品の物性と使用条件を確認することが重要です。
特にAIサーバーや高性能GPUでは、材料の粘度やレオロジー特性が塗布工程に大きく影響します。
粘度が高すぎる熱伝導グリースは、ディスペンサーによる自動塗布や微細な塗布パターンの形成が難しくなる可能性があります。一方、粘度が低すぎる材料では、組立時や長期使用時に材料が移動し、目標とする界面厚を維持できない場合があります。
さらに、高温と低温を繰り返す熱サイクル環境では、半導体パッケージとヒートシンクの熱膨張差によって界面材料に機械的な応力が発生します。長期的には、いわゆるポンプアウト現象などによって界面状態が変化し、熱抵抗の増加につながる可能性があります。
そのため、熱伝導グリースを選定する際には、熱特性だけではなく、塗布性、実装条件、熱サイクル、機械的応力、長期信頼性を含めて評価する必要があります。
熱伝導ゲルはサーマルペーストの代替品なのか
熱伝導ゲル(thermal gels)は、柔軟性や追従性、ギャップ吸収性が求められる電子機器の熱対策に適した熱伝導材料の一つです。
一般的なサーマルペーストと比較すると、熱伝導ゲルはより柔軟で、部品間の高さばらつきや構造上の公差に追従しやすいという特徴があります。そのため、パワーモジュールや電子制御ユニット、複雑な構造を持つ電子部品などで検討されるケースがあります。
ただし、熱伝導ゲルがサーマルペーストや熱伝導グリースよりも常に優れているわけではありません。
チップとヒートシンクの間隔が小さく、取付圧力が管理され、薄いTIM層を形成することが求められる用途では、適切に選定されたサーマルペーストが有効な選択肢となります。
一方、比較的大きなギャップや部品高さのばらつき、構造上の変位への追従性が重視される場合には、熱伝導ゲルが適している可能性があります。
つまり、サーマルペースト、熱伝導グリース、熱伝導ゲルは単純な優劣で比較するものではなく、対象となる製品の熱条件、機械構造、製造工程に応じて使い分けることが重要です。
AIサーバー用サーマルペーストを選定する際の4つのポイント
1. 熱伝導率だけで判断しない
熱伝導率はサーマルペーストの重要な性能指標ですが、それだけで実際の放熱性能を判断することはできません。
実際の熱伝達性能は、TIM層の厚さ、界面への濡れ性、塗布状態、接触面の状態、取付圧力などにも左右されます。
例えば、非常に高い熱伝導率を持つ材料であっても、実際の工程で均一かつ薄いTIM層を形成できなければ、期待した熱性能を発揮できない可能性があります。
AIチップや高性能GPUでは、材料そのものの熱伝導率だけでなく、実装後の実効的な熱抵抗を評価することが重要です。
2. 粘度とレオロジー特性を製造工程に合わせる
AIサーバーや電子機器の量産では、自動ディスペンスなどの自動化工程が一般的になっています。そのため、熱伝導グリースやサーマルペーストの塗布特性は、材料選定における重要な評価項目です。
ディスペンサーの仕様、吐出速度、塗布パターン、目標塗布厚、サイクルタイムなどを考慮し、実際の生産設備に適した材料を選定する必要があります。
特に量産用途では、ロット間の粘度やレオロジー特性のばらつきが少なく、安定した塗布状態を再現できることが重要です。
3. 長期信頼性を重視する
AIサーバーやデータセンター向け機器は、長時間連続して稼働することが想定されます。そのため、初期の熱性能だけでなく、長期使用後の性能維持も重要な評価項目です。
材料選定時には、ポンプアウト、乾燥、オイル分離、揮発、熱劣化などの可能性を確認し、熱サイクル後の熱抵抗変化についても評価することが推奨されます。
短時間の評価では確認しにくい劣化現象が、長期使用時にはシステムの温度上昇や信頼性低下につながる可能性があるためです。
4. 電気特性と材料適合性を確認する
熱伝導材料は、半導体パッケージや電気接続部、周辺部品の近くに使用される場合があります。そのため、対象製品の設計条件に応じて、必要な電気特性や材料適合性を確認することが重要です。
特にAIサーバーや高密度実装機器では、半導体パッケージ、ヒートシンク、表面処理、接着材料など、周辺材料との化学的・物理的な適合性についても事前に検証する必要があります。
AIチップ向けサーマルペーストの選定方法
実際の技術開発では、サーマルペーストの選定を大きく3つのステップに分けて考えると整理しやすくなります。
第1段階は熱負荷の把握です。 CPU、GPU、AIアクセラレーターなどの実際の消費電力と熱流束を確認します。単純にデバイスの型番だけでTIMを選定するのではなく、実際の使用条件を考慮することが重要です。
第2段階は界面構造の分析です。 半導体パッケージのサイズ、ヒートシンクの平面度、目標TIM厚、取付圧力、表面状態、組立公差などを確認します。
第3段階は材料と製造工程の適合性評価です。 実際に使用するディスペンサー、塗布条件、組立条件、温度サイクルなどを想定し、材料が量産工程に適合するかを検証します。
熱性能だけでなく、塗布性、工程安定性、長期信頼性のバランスを重視する用途では、TOUSEN TSAS50 Thermal Pasteも技術評価対象の一つとして検討できます。
TSAS50の製品情報については、以下の製品ページをご確認ください。
TOUSEN TSAS50 Thermal Paste 製品情報
なお、最終的な材料選定については、AIチップの発熱量、TIM厚、ヒートシンク構造、塗布方法、使用温度、熱サイクル条件などを考慮した実機評価を行うことが推奨されます。
AI時代の熱伝導材料選定は「単一性能」から「システム適合性」へ
AIコンピューティングの進化に伴い、熱伝導材料の評価方法も変化しています。従来はサーマルペーストの熱伝導率が主要な比較項目として扱われることが多くありました。
しかし、高発熱密度のAIプロセッサーでは、単一の材料性能だけでシステム全体の放熱性能を判断することは困難です。
現在の熱設計では、サーマルペーストと半導体パッケージ、ヒートシンク、機械構造、塗布工程の組み合わせを総合的に評価することが求められています。
例えば、高発熱GPUでは界面熱抵抗やポンプアウト耐性が重要になる一方、サーバーの量産工程では塗布の再現性やロット安定性が重要になります。また、部品間のギャップが大きい電子モジュールでは、熱伝導ゲルの柔軟性やギャップ追従性が有効になる場合があります。
つまり、サーマルペースト、熱伝導グリース、熱伝導ゲルは単純に競合する材料ではありません。それぞれ異なる設計課題に対応するための熱伝導材料であり、対象となる機器の熱的・機械的・製造上の条件に応じて選択することが合理的です。
まとめ
AI、高性能コンピューティング、データセンターの急速な発展により、電子機器の熱設計にはこれまで以上に高い性能と信頼性が求められています。
発熱部品とヒートシンクの間に配置されるサーマルペーストは、熱を効率的に伝達するための重要なTIMの一つです。
技術者がサーマルペーストや熱伝導グリースを選定する際には、熱伝導率だけを比較するのではなく、界面熱抵抗、TIM厚、粘度、レオロジー特性、塗布性、機械的安定性、使用温度、材料適合性、長期信頼性などを総合的に評価する必要があります。
一方、熱伝導ゲルは、柔軟性やギャップ追従性が求められる用途において有効な選択肢となります。
今後のAI機器や高性能電子機器の熱設計では、「最も熱伝導率の高い材料」を探すのではなく、「対象システムに最も適合する熱伝導材料」を選ぶことが重要になります。
AIサーバー、GPU、CPU、HPCシステム、高出力電子機器などを開発する企業にとって、実際の使用環境と量産工程を想定したTIM評価体制を構築することは、安定した熱性能と長期信頼性を確保する上で重要なポイントとなります。
TOUSENでは、こうした高性能電子機器の熱設計ニーズに対応するため、用途や実装条件に応じた熱伝導材料の選定をサポートしています。
AI鉄道車両を支える熱伝導グリースと放熱技術
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